「……身を引くと言えば聞こえはいいが、ようはお前さん、未優からも自分からも逃げたいだけだろ。
アタシは逃げなさんなと、言ったはずだがねぇ?」

留加は歯噛みした。何も、言えない。

「アタシなりに、これでもお前さんのことは見てきたつもりだよ。
潔癖で、自分にも他人にも厳しい。一見、冷たくて情がないように見えるが、あったかいものを、ちゃんともってる。
アタシからすれば、あきれるくらい律儀でストイックな男だ。……お前さんを『禁忌』の側に置いといたって、なんの不安もありゃしないね。
なにしろ、普通の男なら数時間で迎える“変身”を、三日間も押さえこめるんだ。並大抵の自制心じゃないだろうさ」

打って変わったように穏やかに話す響子に、留加が口をひらきかける。

響子は目で制した。

「今は、恋心を自覚したばっかりで、コントロールがきかない気がしてるだけさ。
心配いらないよ。お前さんは、あの子の側にいてやんな。
なぁに、長くて二三年、早けりゃ一年で、あの子は『女王』にたどり着けるだろう。それだけの才をもってる子だ。ぜひ、支えてやって欲しいね」
「───『女王』になれば、恋愛は自由ということか」
「それに、あの子の家のしがらみもなくなるし、良いことづくめだ。二人で、『女王』をめざしとくれ」