未優は留加を見た。

涙でにじんだ視界のなか、留加の青い瞳が真っすぐにこちらを見ているのが、解った。

「本当に……? あたし以外の、誰にも……?」

震える指先を押さえこみながら問い返すと、留加がうなずいた。

「君のためだけに弾く。これから先、君が“歌姫”である限り」

最後の言葉を聞いて、未優は首を横に振った。それでは、駄目だ。

「あたしが“歌姫”でなくなったら、弾いてくれなくなるってコトだよね? そんなの、ヤダよっ……!」

留加は大きく息をついた。

言うことに脈絡がない上に感情的すぎる。こんな未優は、初めてだ。

「じゃあ、どうしろと言うんだ。
“歌姫”でなくなった君に、おれのヴァイオリンは必要ないだろう」
「必要だよ! どうして解ってくれないの? なんでそんなことを言うの?
留加のヴァイオリンじゃなくてあたしが欲しいのは、留加なのにっ……!」

未優の悲痛な叫びが、留加の閉ざした心の奥にある弦を、はじく。

鳴らされるはずのない音が、確かに響いたのを感じ、留加は、驚きと共に自らが抱く感情を、自覚しないわけにはいかなかった。

瞬間、未優が身体を折るようにして、その場で倒れそうになる。

寸前で、留加は未優を抱き止めた。息遣いが、荒い。

(……“変身”か……)