「あたし、シェリーさんに、留加のこと譲る気ないから!
留加はあたしの“奏者”だもん! 渡さないからね、絶対!」

感情が高ぶるまま口をついてでた言葉は、子供っぽい我がままでしかない。
未優の頭の片隅で、警告する声がする。やめろ、それ以上は言うなと。

「……そんなことは、あり得ない。第一、彼女の声質に、ヴァイオリンは合わない」
「じゃ、合えば弾いてあげるってコト!? なんで? あたしのために弾くって、言ったのに!」

さすがに変だと思い、留加は未優に歩み寄ろうとする。とたん、未優がヒステリックに叫んだ。

「来ないで! 近寄らないで! あたしのこと、好きでもなんでもないくせにっ。
だったら、せめて“奏者”として、あたしのためだけに、弾いていて欲しかったのにっ!」

また涙がにじんできた。
頭がガンガンする───未優は、自分が放つ言葉を止められなかった。

「お願いだから、“奏者”でいることだけは辞めないで……。
あたしのこと好きになって欲しいなんて、言わないから……だから、お願い……!」
「───あの日、君に言ったことに変わりはない。
おれは、君のために弾く。何度でも。その言葉だけでは不十分だというなら、もうひとつ付け加えよう。
おれは、今日を境に、君以外の誰のためにも、弾かない」