ヴァイオリンを弾くのは《彼》だけではない。“第三劇場”所属の“奏者”にもヴァイオリニストは多い。
だが、彼らの多くは通いの者で休館日のこの時間にいるということは、考えにくかった。

それより何より───。

(この音、留加の音だ……!)

間違いようがない。自分の“奏者”である彼の音色を。
未優のために弾くと約束してくれた、その音色を───。

(誰に、弾いてあげてるの?)

この方角から言って、トレーニングルームであることは確かだろう。そこで、留加が一人で弾くわけがない。

ましてや、清史朗がさきほど言っていたことを思えば、『王女』か『声優』のどちらかのためだろう。

(嫌だって、思うのに)

確かめずには、いられなかった。

トレーニングルームのガラス扉越しに見えたのは───留加と、シェリーだった。