「あたし、そんな気ありません!」
「───そうじゃな。嬢ちゃんにできるのは、歌と踊りだけ。
そうそう、《家》に戻れば、跡取りを産むこともできるな。……それも、立派な《役目》じゃ。
のう、未優嬢ちゃん。
人には向き不向き、そして、望む望まざるという、その本人にしかできないことがある。
嬢ちゃんが“歌姫”の公娼制度をおかしいと思っても、それはどうにもならんこと。
仮に嬢ちゃんが政治に携わって制度自体を変えようと言う気になるなら、また話は別じゃがな。
……それは、あり得ないことじゃな?」

未優はうなずいた。
“歌姫”でありたい自分が政治の世界へなんて、とんでもない。

すると勝は、その茶色い眼に力をこめて、未優を見た。

「ならば、つまらんことを口にするでない。人の心配をする暇があるなら、己の為すべきことを為せ。
……自分の頭の上のハエも追えないような人間が、何をぬかすか」

何様のつもりだ、と、勝が言っているのだと、未優はようやく気づく。

恥ずかしさに顔が熱くなった。穴があったら、入りたいくらいに。

(ケイトが、可哀相だって、思った……)

けれども、それだけだ。自分に何ができるわけでもない。

『禁忌』の座を譲れるとしたら譲るというのか───?
無理だ。この“地位”は、未優が“歌姫”でいるためには、手放せないものだった。