緑色の眼が、未優を見上げてくる。
“踊り子”のキャサリンだった。皆にはケイトと呼ばれている。

「未優さん、こんにちは」
「こ、こんにちは。えっと、ごめんね? いきなり入って行ったりして……」
「いいえ。気にしないでください。……それじゃ、さようなら」

ペコリと頭を下げて、キャサリンは未優に背を向け、歩きだす。
フレアースカートからのぞいた『山猫』の尾が、なんだか元気がないように見えた。

未優は思わず、キャサリンを呼びとめる。

「ケイト? なんか、あったの?」

側に寄って顔をのぞきこむと、瞳が潤んでいる。キャサリンは言った。

「あたし、明日からサヨナキドリのリストに載るんです」
「あ……」

未優は、言葉を失った。

サヨナキドリとは、ナイチンゲールの別名だ。そのリストに載るということは、娼婦として買われることを意味する。

キャサリンは、おそらくそのために、診察を受けていたのだろう。

「勝医師(せんせい)は、初めての相手がお客さんじゃ嫌だって言うなら、“第三劇場”にいる男の人ならどうだって。
だからあたし、ちょっと考えて……『虎』の薫さんか『山猫』の慧一さんがいいかなって。
両親のどちらかの血筋の人とって思ったんです」
「やっ、やめときなって! 特に、慧一……さん。あの人、超性格悪いんだから!」