慧一の言う通りだ。遅いか早いかの違いだろう。

“歌姫”を続けていれば『女王』をめざすのは必然だ。ならば、意識を切り替えるしかない。

未優は、カレンダーに印をつける。
今日から、自分が『女王』をめざすのだという決意に代わって。

「───あれ?」

思わず、声をあげた。もう11月も中旬である。
未優は、とっくに来てなければならない自身の“変身日”が、まだ来ていないのに気づく。一週間近く遅れていた。

(あーっ。“連鎖舞台”で頭がいっぱいで、すっかり忘れてたーっ)

あわてて医務室へと向かう。
(まさる)に相談する目的で扉をノックしようとした時、なかから少女のすすり泣くような声がした。

(またエッチなビデオ観てるんじゃ……)

眉をひそめつつ、乱暴なノックをした直後、未優はなかへと入った。

「失礼します、エロビデオ観てる暇があるなら、あたしの相談にのってください」

口先だけの、感情のこもらない言い方で告げる。とたん、

「こら! 相手の返事も待たんで入ってくる馬鹿がおるか!」

勝の一喝に、未優はぎょっとなってそちらを見る。

衝立ての向こうに、人影があった。診察中だったのだ。

「ご、ごめんなさいっ!」

あわてて未優は、医務室の外へと飛び出した。扉の横に立ち、前の人の診察が終わるのを待つ。
ほどなくして、室内からハチミツ色の髪をした12、3歳の少女が出てきた。