未優は記憶を手繰り寄せる───確かに、言っていた。それゆえに『女王』は全国でただ一人なのだとも。

「それが『女王』の座の意味、不可侵であれ、だ。
つまり、『女王』はひとつの独立した国家と同じなんだ。誰にも指図されず、何者にも支配されない。
『女王』の領土は全国にある各“劇場”だ。その領土を回り、“舞台”を行うことによって統治する。
それが法で守られているとなれば、当然、親父さんがどうこうできるレベルじゃない。晴れてお前は“歌姫”でいられるというわけだ」

おどけるように、慧一は両手を広げた。しかし未優の方は、至って真剣に、慧一の言葉を繰り返す。

「『女王』になれば、あたしは“歌姫”でいられるんだ……」

慧一も真顔になって、うなずく。

「そうだ。
『女王』になれば、恋愛は自由だし、『女王』であるがゆえに、公娼制度から外れる。なにしろ、不可侵であれ、だからな」

未だ『女王』について、完全に把握できていないだろう未優に、言い聞かせるように慧一は言葉を重ねる。

「『女王』になれ、未優。お前が望むものを手に入れるためには、そうするしかない」