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「留加? ……あの、そろそろ起きた方がいいかと思うんだけど……」

遠慮がちにかけられた声に、留加は目を覚ました。やわらかくて温かい感触が、頭の下にあった。

(眠って……しまったのか……)

未優の歌う『アヴェ・マリア』の旋律が心地よく、少し眠気を感じていたために、寝てしまったのだろう。

「留加? 起きた?」

瞬間、留加は唐突に理解した。
がばっと身を起こし、呼びかけの声の主を見やる。びっくりしたように、留加を見返す、緑色の瞳があった。

「……っ……すまない!」

言うなり留加は立ち上がり、そのまま防音室を出て行ってしまった。
未優は、あ然として、それを見送っていた。まさか、あれほど留加が動揺するとは。

(なんか、留加って時々、意味不明……)

人の手を思いきり握っておいて忘れていたり。散々っぱら人の膝の上で寝ておいて、顔を真っ赤にしてみたり。

未優は急におかしくなった。くすくすと笑いだす。

(ホント、留加ってば、変なの……!)

笑いながら未優は、胸のうちに積もり積もった留加への想いに気づく。ふいに、胸がしめつけられた。

(あたし、やっぱり留加のことが好き……!)

───そうして未優は、自らの胸のうちで秘めておかなければならないことを、またひとつ、自覚したのであった。