あきれたように息をつき、なぜか留加は未優の隣に腰をおろした。
未優とわずかに間を置くと、壁に寄りかかる。

「あたしの『山猫』としての能力って、身体系ばっかりで、感覚系は全然ダメで《ヒト並み》なんだ」

留加が隣に座ったことで未優は内心穏やかではなくなったが、肝心の留加の方は特に気にも留めない様子だった。

「そうか。それは不便かもしれないが、少しうらやましくもあるな。
女性は、香りをまとう人が多いだろう? おれは、それが苦手だ。一緒にいると、気分が悪くなることがある。
“能力切替”の訓練も受けているし、普段は“無効”にしているんだが。そういう意味で、君が何も香りをまとってないのは助かる。
演奏中は“有効”にしておかないと、良い演奏ができないからな。あれは、感覚を閉ざしてしまうわけだし」

(……こんなにペラペラしゃべる留加って、初めてかも……)

そう思って、留加を見た。うつろな目をしている。

(ひょっとして、眠いんじゃ……)

そんな状態の留加が、なぜ防音室にやって来たのか、未優には見当がつかない。

ぽつりと、留加が言った。

「考えはまとまったのか?」
「うん、まぁ、一応……」
「そうか。……君に、頼みがあるんだが」

力のない声は、消え入りそうなほど、細い。未優はそんな留加に驚く。