「あたしは“舞台”にはほとんど立たないけど、お客さんの指名率は高いんだよ? それって、あたしのサービスが良いからだって、あたしは自負してる。
未優、あんたが客をとらずに“舞台”でお客さんを楽しませてあげるように、あたしは“舞台”には立たないけど、《裏の》舞台で客を喜ばせてる。
お互いに、どっちかが欠けてるけど、でも、そういう“歌姫”がいたって、いいじゃん」

未優はようやく、さゆりの言いたいことが解って、微笑んだ。

(あたしに譲れないものがあるように、さゆりさんにも、それがある……)

「えぇっと……それはつまり、あたしができないことをさゆりさんにしてもらって、さゆりさんが望まないことをあたしがするという……」
「共存関係ってヤツ? やっと言葉がでてきたよ……。
あぁ、あたし、自分の思ってるコト相手に言葉で伝えるの、苦手なんだよね。おまけにあんた、鈍いしさぁ」
「……ご、ごめんなさい……!」

恐縮する未優に、さゆりは真顔でパタパタと手を上下に振った。

「冗談だよ。
───じゃ、あたし行くね。今日の夕食当番だし」
「あのっ、ドレス、ありがとうございます! すごく嬉しかったです!」
「……そんなにデカイ声ださなくても聞こえるよ」

ぶっきらぼうに言い切って、さゆりは部屋を出て行った。
未優は頭を下げ、そんなさゆりにもう一度、感謝する。

「本当に、ありがとうございました!」

───さゆりの心遣いが、嬉しかった。