「いいんですか? あたしがこれをいただいても……」
「持っててもどうせ着ないしね。あたし“舞台”に立つ気ないから」

未優は、さゆりが前回行われた“連鎖舞台”のメンバー決めの試験を、受けていなかったのを思いだす。

そして、他の“歌姫”たちから「万年『踊り子』」と揶揄(やゆ)されていることも。

「……あんたからすると、あたしが“舞台”にあがりたがらないのは『なんで?』って言いたくなるのかもね。
でもさ、あたしからすると、あんたの方が『なんで?』ってカンジなのよ」

とまどって見返す未優に対し、さゆりは、ふっと笑ってみせた。

「あたしは、“歌姫”として客をとることを嫌だと思ったことはない。あたしと寝て喜んでもらって満足した客が、その対価をあたしに払う。

ただ身体を開いて受け入れるだけの行為なら、確かに性欲処理の相手をしているだけかもしれない。
けど、その相手の望むものや抱えているものをさらけださせるための手段の一つとして、あたしは「娼婦」ってものを考えてる。

別にそれは、他のサービス業でだって可能なことだとは思うよ? ただ、あたしには、このやり方が合ってるってだけでさ。
しかも、収入がいいってなれば、言うことないし。だからあたしは、“歌姫”を続けてる。
他の連中に何を言われても」

ふふん、と、さゆりは得意げに鼻を鳴らす。