(彼の目に、止まればいいがな)

慧一は、次の客のテーブルへと向かった。

V.I.P席の各テーブルに備えつけられた薄型映像機に、舞台上の様子は映しだされている。
今は、『ラプンツェル』の第一幕と第二幕の幕間だ。
もうじき未優の姿が、そこに映しだされることだろう。

(あとはお前の“舞台”次第だ、未優)

それによって、慧一のとるべき道も、変わってくるのだから……。


†††††


V.I.P席と壁一枚隔てた小スペースに“第三劇場”特別仕様の観覧席がある。

ガラス越しに舞台を見下ろすことができ、薄型の映像機がテーブルに備えつけられ、臨場感溢れる音響設備が整っているのは同じだ。

だが、そこで観覧できるのは、“歌姫”だけである。

響子が「勉強」のために造らせたもので、“第三劇場”の“歌姫”であれば誰でも入ることが許されているが、たいてい『王女』二人の特等席となっているのが実態だ。

「……リハーサルの時より、良いわね」
「えぇ。二人とも本番に強いタイプのようですね」

一組だけ置かれたテーブルと椅子。
そこに腰かけたシェリーの横には清史朗(せいしろう)が立っている。