ぴくり、と、膝に置かれた留加の拳が反応する。

『あなたには関係ないだろう』とは、もう言えなかった。
《彼女》はここで雇われ、そして自分も、間接的にとはいえ、ここに所属している身だ。

「無理にとは言わないさ。未優と違って、あっちはいろんな意味で良くできた()だしね。
むしろ問題は、お前さんの方だろうねぇ……。
ま、気が向いたら、シローにでも相談するんだね。良いように取り計らってくれるだろ」
「───失礼する」

留加は腰を上げた。響子の言いたいことは、解った。
そして、確かに近い将来、彼女───シェリーと向き合わざるを得ないだろうということも。


†††††


響子に言われたことによって、留加の態度が変化することはなかった。

未優は留加との関係が、ギクシャクしてしまうのではないかと思ったが、気のまわし過ぎだということに、すぐに気づいた。

(考えてみれば、留加は最初からあたしのこと恋愛対象として、見てなかったわけだし…)

あれは、未優に対しての苦言であって、留加に関しては、形だけのものだったのだろう。

寂しくないといったら、嘘になる。
留加と自分をつなぐのは、“歌姫”と“奏者”という間柄だけで。それ以上でも、それ以下でもない。