(あれは……『狐族』の「水の舞い」の型から《盗んだ》ものだね)

他人の技術力を得ようと思ったら、それを受け入れる素地と感性……そして努力が必要だ。

ただの物真似にならなかったのは、未優が自分のうちできちんと消化し、自分の技術(もの)としてしまったからだろう。

(歌の方も、少し色気がでてきたようだし)

成長著しい。
響子はそんな未優を見て、ふっと微笑んだ。

(こりゃ、あとでクギさしとかなきゃいけないねぇ)

脳裏に、黒髪のヴァイオリニストの姿が浮かぶ。
さて、どちらからにしようか───響子が思いあぐねた時、目の前で未優の演技が終わった。


†††††


涼子が言っていた「他のナイチンゲール達に実力を示す」というのは、こういう意味もあったのか、と、未優は思った。

“連鎖舞台”への出演希望の者すべての演技が終わったのち、もう一人の世話係である薫が、“歌姫”一人一人を回ってノート型の端末機に各演目の各幕、それぞれふさわしいと思う者を投票させたからだ。

「……僕が端末握ってるからって不正は一切ナシだから、安心して?」

さりげなさを装い、薫が未優にささやいてきた。

「当たり前じゃない、もう」

ムッと薫をにらみ、未優は薫に端末機を返す。
薫はそんな未優に片目をつむってみせてから、次の“歌姫”へと近寄って行く。