つかつかと綾が未優に歩み寄ってきた。いきなり、ぐいとあごをつかまれ顔を上向かされる。

「誰も気づいてないと思ったら、大間違い。勘の良い子なら、変だって気づいてるわよ。……私は、確信してるけど。
『山猫』の、“純血種”なんでしょ? あなた」
「えっ……」

未優は面食らった。
確かに“種族”に関しては、髪と瞳の色でおおよそ見当がつくはずだ。

現に、目の前の綾の銀髪と深紅の瞳は『狐族』によく見られる特徴だと、誰もが知っている。
そして、未優の栗色の髪と緑色の眼が『山猫族』に見られる特徴だということも。

だが、“純血種”か“混血種”かは、“ピアス”の色を見なければ、判断はつかないはずなのだ。

瞬間、乱暴につかまれたあごが放りだされる。綾は、腕を組んで未優を見下ろしてきた。

「あきれた。本当に解らないみたいね。
しぐさや言葉遣いは庶民でも、その心根が、鈍感な育ちの良いお嬢様ってこと? ……笑えるわね」

吐き捨てるように言い切って、綾は険しい表情のまま未優を見据えた。

「……客をとらずに済む“地位”っていうのは、『女王』と『禁忌』だけ。
いいこと? どちらも共通して言えるのは、それに見合うだけの実力ってものが求められるのよ。
客はとらない“舞台”には立てない……そんなの、ただの穀潰(ごくつぶ)しじゃない。