「のう、未優嬢ちゃん。人は、己の無力さを痛感した時、何をすると思う?」
「なん、ですか?」
「祈るんじゃ。祈ることしか、できん。
逆に言えば、祈ることだけが、最後に残された希望じゃ。
……祈りは、歌うことにも通じるはず。嬢ちゃんは、歌うことが得意と聞いておるが?」

(あっ……)

「嬢ちゃんの歌声が本物なら、留加の苦しみを、救ってやれるかもしれん」

勝の言葉に、未優は飛ぶように部屋へと走って行った。
その後ろ姿に、勝はやれやれとつぶやき、手元のリモコンのスイッチを入れた。

†††††

相変わらず激しい物音が隣室から聞こえていた。
果たして、こんな状態で未優の歌声が留加に届くかどうかは疑問ではあったが、未優はゆっくりと息を吸い込んだ。

透明な歌声が空間を流れ出す───。

(聴こえる聴こえないの問題じゃない)

歌うことは、祈ること。
留加の苦しみが、少しでも早く()えるように。

(お願い、神様。留加を、助けてあげて)

留加を想って歌う。
それはなぜか、愛のささやきに似て。
伝わることは恥ずかしい反面、心地良くて。
未優は声の限りに、留加に向けてその歌声を響かせ続けた───。