その時、ガシャン、と、何かが割れる音が隣室から響いた。びくっとして未優は、壁に目を向ける。
……何か、あったのだろうか?

訳もなく不安になり、防音室から留加の部屋へと続く扉のノブを回す。鍵はかかっておらず、難なくそれは開いた。
室内は真っ暗で、窓から差しこむ月明かりだけが、窓際のベッドと中央に置かれたテーブルの一部を照らしている。
床に、置時計が落ちているのが見えた。表示板が割れている。

(こんな時、「闇目」だったら良かったのにって、思っちゃうよ……)

『山猫族』の能力の一つ、「闇目」の力が備わっていれば、暗闇でも、もっと室内の様子が解ったはずだ。

手探りのまま、未優は部屋の明かりをつけようと、入口へと向かった。
ふと、無断で部屋に入ってしまったことに気づき、あわてて声をあげる。

「えっと……勝手に入ってゴメンね、留加。
どこにいるの? 大丈夫? 今、電気つけるね」

やっと見つけたスイッチに手を伸ばした時、背後に人の気配を感じ、未優はホッとする。

「留加、良かっ」
た、と言いかけ、未優は目を見開いた。

スイッチに触れかけた自らの手に重ねられた大きな手。指先は『犬』の爪に変わりかけている。
“変身”───そう思った時には、背後から腰を引かれ、抱きかかえられていた。