じろりと眼鏡の奥のつり目ににらまれ、未優はムッとして慧一を見返した。が、慧一の言うことももっともなので、すぐに気持ちを切り替えた。
ここに長居は無用だ。もう用は済んだのだから。

「じゃあ、あたしはこれで行くね。……味見してくれて、ありがと」

慧一は無表情にサンドイッチを口へ運びながら、片手で未優を追い払うしぐさをしてみせた。

(……いちいち憎たらしい…)

慧一の部屋をあとにし、その足で留加の部屋のドアを叩く。が、反応がない。

(どこかに出かけてる……? あ、でも、待てよ)

思い当たって、未優は自分の部屋に戻り、防音室の扉を開けた。すかさず耳に入る、ヴァイオリンの音色。

「ごめん、留加。邪魔しちゃって。お昼まだなら、一緒に食べない?」
「───昼……。もうそんな時間か……」

構えをといて、留加がつぶやく。

(ずっとヴァイオリン弾いてたのかな……)

そう思って尋ねると、ヴァイオリンをしまいながら留加が言った。

「昨晩、君と話していて、感じたことを音にして確かめていた。
君のことを想って、弾いていた」

(……どうしよう……今、一瞬、違う意味に聞こえた……)

それが“演譜”についての見解と、未優の歌声に対してのものだとは、すぐに解った。
解ったが、聞きようによってはなんだか愛の告白にも聞こえると思い、未優は思わず赤面した。
心臓が、ばくばくと音を立てる。

「───防音室ってさぁ、なんかやーらしぃよね~」