「えっ……」

未優は顔を真っ赤にした。
嬉しさと気恥ずかしさがない交ぜになって、何を言っていいのか解らなくなる。そんな未優に、シェリーはふふっと笑った。
思いついたように口を開く。

「……そうだわ。私、あなたに訊きたいことがあったの。あなたには、専属の“奏者”がいるけど……彼とは、長いの?」
「いいえ。まだ、知り合ってから間もなくて……」

言いながら未優は、新人である自分に、すでに“奏者”がいることを、シェリーが快く思っていないのかもしれないと気づく。
面接時の響子の口振りに、薫に訊いたところによれば、通常は“劇場”所属の“奏者”から、自分に合った者を選ぶという形をとるらしい。
だから、今回のように“奏者”連れで“劇場”に入るのは、異例中の異例のはずだ。

「そう……。じゃあ、彼の過去については、知らないことの方が多いのかしら?」

しかしシェリーの口調からは、未優を責めるようなところは窺えなかった。わずかな違和感を覚えながら、未優はうなずいてみせる。

「あまり……知らないですね。あの、それが何か?」

気になって問い返すと、シェリーは優しく目を細めた。

「“奏者”との相互理解は大切よ。余計なお世話かもしれないけど、なるべく意識的に、彼とコミュニケーションをとった方がいいわ」