留加は堪えきれず、未優の側に寄り、彼女の手をつかんだ。

「すまない。……音が合わなかったのは、おれのせいだ。帰ろう」
「───えっ……え? 留加? どうしたの?」
「帰って、音合わせしよう」

未優の手を引いて、留加が足早に歩いて行く。
引きずられるようにして歩きながら、未優は留加を見上げた。真っすぐに前を見て、思いつめたような顔をしている。

(な、なんかよく解んないけど、ラッキーって、思っておこう)

痛いくらいに手を握られ、なおかつ、腕が抜けそうなくらい強く引っ張られているのに。
おめでたいことに、未優はそれを喜んでいた───さきほど演じた『赤い靴』の少女、そのままに。

†††††

短く早く力強い振動で、弦が音を奏でる。歌声は同調し、空間のなかで響く旋律は、見事な融合を果たす。

未優は留加を見た。傾けていた顔を上げ、留加は微笑んだが、すぐに眉を寄せ、口をひらいた。

「……すまなかった」
「え?」

意味が解らず、未優は目をしばたたかせた。留加が目を伏せる。

「音が合わなかったのは、おれが君のために弾かなかったせいだ」

直前に見た“舞台”の影響を受け、留加はそのイメージのまま、未優と音を合わせてしまったのだ。……シェリーの“解釈”に合わせて。