さっき亜紀が呆然としていたみたいに私もなってるんじゃないかと、気持ちを引き締める。

まだ少しだけ震える足をなんとか踏みしめながら受付に戻ると、人の列ができていて亜紀は忙しそうに案内していた。

そういえば今日は年明け初日だもんね。お得意先がたくさん挨拶にくるわけだ。

「遅くなってごめん」

亜紀の耳元で謝ると、私も気持ちを入れ換えて業務に取りかかった。

あまりに次から次へと来客があったので、気付いた時には澤井さんのいた部屋には飲み終えた茶碗が残されているだけだった。あまりにあっけなくて、でもこんなものかと自分に言い聞かせる。

偶然、再会したけれど、そんな簡単に繋がってはいかない。だって運命の出会いなんてそうそうないもの。

それに相手がすごすぎる。私なんか到底相手にしてもらえない。

「澤井さん、さっき帰られましたよ」

ようやく来客が一段落したので、給湯室で茶碗を洗っていたら、亜紀がやってきて私に言った。

「そうなんだ、全然気付かなかったわ」

亜紀には挨拶していったんだ。

私は前を向いたまま自分の揺らぐ気持ちと戦いながら茶碗をいつも以上にゆっくりと洗った。

「黙ってたなんてひどいよ」

そんな私の横で亜紀が頬をふくらまして腕を腰に当てている。

「何が?」

「澤井さん、帰り際に『谷浦さんによろしく』って言ってた」

「え」

思わず茶碗を洗う手が止まった。

澤井さん、私に挨拶言付けてくれてたの?

急にそんなこと言われて顔がカッと熱くなった。亜紀の前では冷静を装わなくちゃと思えば思うほどドキドキも加速する。