私のために?

「だけど!」

「大丈夫だよ。何も心配いらない」

澤井さんはそう言うと、私の頭をそっと撫でた。

そんな風に言われたら、大丈夫なような気がしてくるから不思議だ。

彼の「大丈夫」っていう言葉は魔法の言葉。その言葉に私は何度救われたかしれない。

「・・・・・・父は、澤井さんを傷付けることを言うかもしれません」

小さな声で言った。もし父がひどいこと言ったら、澤井さんは父のこと嫌いになるかもしれない。
そのことも恐かった。きっと澤井さんが父に会いに行く以上に。

彼はふっと口元を緩めてうつむき、また私の方に視線を上げた。

「それも大丈夫だ。俺は真琴のお父さんのことを真琴と同じように大事に思ってる。その気持ちはどんなことを言われても変わらないよ」

私の心配な気持ちも全部澤井さんは受けとめて、父に会おうとしてくれているんだ。

少し考えて、それから私は彼の目をしっかり見つめて言った。

「よろしくお願いします」

彼は笑顔で頷くと私の手をとって、病院に向かって歩き出した。

澤井さんがいればどんなことがあっても大丈夫。

必死に自分に言い聞かせながら、彼の熱い手に包まれている。

エレベーターに乗り、父の病室のある階に昇っていく。

その階に到着し、エレベーターの扉がゆっくりと開いた。