澤井さんは、途中花屋に寄ると豪華なアレンジメントフラワーを買った。

一瞬私に?って思ったけれどそうではないみたいだ。

花を車に積んで再び走り出し、車内から見える景色はだんだんと自分の知ってる景色に変わっていく。

あれ、ここ。

澤井さんが停めた駐車場は、父が入院している病院だった。

運転席に座る彼の顔を見つめた。

「あの、ここは父の入院してる病院ですけど」

「わかってる」

「どうしてここに?」

胸がトクントクンと鼓動を速めていく。

「君のお父さんへのお見舞いだよ」

「お見舞い?え、だけど」

父は、澤井さんと私はもう終わったと思ってるし、あれ以来だからきっと澤井さんのこと許してないはず。

車から出て病院に向かおうとした彼の腕を掴んで思わず引き留めた。

「どうして?」

尋ねると、澤井さんは私を見下ろして優しく微笑む。

「あの日、お父さんと君を深く傷付けて同居に踏み切ったこと、ずっと気になっていた。俺自身、あの時はまだ自分の気持ちと向き合えなくてお父さんには真琴への思いをきちんと伝えることができずにいたんだ。本当に申し訳なかったと思っている。お父さんに今の俺の気持ちをしっかりと伝えたいんだ」

頑固な父のことは自分がよく知ってる。
いきなり彼が現れて話としたとしても、絶対聞く耳をもっていない。

「今行ってもきっとわかってもらえない。だから、私から時期を見て話すから」

「いやだめだ」

彼は強い意志をたたえた目で私の言葉をきっぱりと制した。

「俺は、俺の責任でお父さんに自分の気持ちを伝える。真琴はこれ以上お父さんと辛い話をする必要はない」