「真琴!」

その時誰かが背後から私を呼んだ。

誰かがなんて嘘。すぐにわかっていた。

声の方に振り向きたいのに恐くてできない。どんな顔して会えばいいの?

次から次へと溢れる涙が止まらない。顔を両手で被ったままうつむくしかなかった。

「真琴」

私の体がすっぽりと背後から抱きしめられる。

温かくて大きくて、つい最近まで何度もその熱を感じては胸を焦がしていた。

「澤井さん」

私に巻き付いた彼の腕をぎゅっと握り締めた。

「苦しい思いをさせてごめん。もう二度と真琴の心も体も離さない」

観光客で賑わう京都タワーで抱きしめられてる。

きっとそんな私達を見て笑う人もいるかもしれない。

でも、そんなことどうだってよかった。今ここに彼がいるってことが何よりも大切だって感じる。

彼は、何にも変えることのできない、そして誰にも代わりはできない特別な存在。

一人で過ごした時間が、彼が自分にとってどれほど必要かってことを教えてくれた。

「私こそわがままでごめんなさい。ずっと会いたかった・・・・・・」

「お父さんのこともあって一人で心細かっただろう?」

耳元で彼の優しい声が響く。

「自分でも意外と一人で奮起できていたことはびっくりでした。私澤井さんと出会って強くなったのかもしれません」

彼が私の首の後ろでくくっと笑う。

「相変わらず意表を付いたこと言うね。俺がいなくても大丈夫だったなんてさ。俺にとっては、真琴が強くなったのはいいんだか悪いんだかわからないな」

「違うんです。そばにいなくてもずっと澤井さんは私のそばにいました。だから色んなことを乗り越えることができたんです。一人になって、くだらない嫉妬で澤井さんにひどいこと言った自分が恥ずかしい・・・・・・」

澤井さんは私を自分の正面に向ると、熱い瞳で私をしっかりと見つめた。

「俺はどんな真琴であっても大好きだ」