「会いたい」

周りに聞こえないような小さな声で口にした。

スマホの電話番号帳から澤井さんの名前を引っ張ってくる。

どうしよう。名前を見ただけでこんなにもドキドキしている。恋愛初心者はこれだから困る、なんて自分自身に突っ込みたくなる。

目をつむって深呼吸をし、澤井さんの電話ボタンを押そうとした時、電話を着信した。

かかってきた相手は、澤井さんだった。

体中が熱く震える。

感激して胸の内は激しく動揺しているのに、「はい」と妙に冷静な口調で出てしまう。

『真琴?』

耳元に彼の甘い低音が響く。今すぐにでも彼のそばへ飛んでいきたいのに。

『今、どこにいる?』

「・・・・・・京都タワーの最上階です」

『そこを動くなよ。すぐそちらに向かうから』

え?

彼の電話はその言葉を残してすぐに切れた。

すぐ向かうからって言ってたよね?私の空耳?会いたすぎて、そんな風に聞こえてしまったんだろうか。

東京にいるはずの彼が京都になんてあり得ないよね。

わかってはいたけど、その場を離れることができなかった。

彼は一度だって私に嘘なんかついたことがなかったから。

そばにあったベンチに腰を下ろして、半信半疑のまま澤井さんを待つことにする。

上着のポケットに入れていたスマホが突然震えた。

びっくりして思わずその場に立ち上がってしまう。

澤井さん?

スマホを開くと亜紀からのLINEだった。

【言い忘れてたけど、澤井さんに今真琴が京都にいるって伝えたら、すぐにどこかに電話入れてた。ひょっとして今頃京都に向かってるかも 亜紀】

そうだったんだ。亜紀が私が京都にいるって伝えてたんだ。

体中がドクンドクンしてくる。じっと座っていられないくらいに。