昨日は京都まで来てすぐに帰っちゃったから、今日は少しだけ京都駅周辺を散策して帰ろう。

夜は山川さんと一緒におはぎと和三盆ロールの仕込みする予定になっていたけれど、まだ時間は早いし。

駅前の京都タワーに上った。

それほど高くもないけれど、背の高いビルが一つもない京都の街にはこれくらいが丁度いいと感じる。

それぞれ見合った高さがある。目指すものも立ち位置も。

私にはまだ京抹茶は敷居が高すぎたんだ。父が戻るまで卸してはもらえないけれど、いつかきっと私にも抹茶を分けてもらえるような人間になりたい。

なんて、変なの。そんな風に考えるなんて、まるで菓子業を継ぐみたいじゃない?

そんなことあるわけないのに。思わず京都の街の向こうに見える山脈を眺めながらフッと笑った。

だけど、

さっきは、本当にくやしかった。自分ががんばってきたことを全否定されたみたいに。

バッグからスマホを取り出し亜紀にLINEを打つ。

【ごめんね。抹茶プリンはもう少しお預けになりそうです 真琴】

送信した途端、涙が溢れてきた。こんなことで泣くことすらくやしいのに。

せっかく、自分一人でも立ってられるって思ったのに。

やっぱり私はまだまだなんだ。そう思ったら、涙が止まらなくなってきた。

その時、スマホの着信音が響く。亜紀からだった。

【今日、澤井さん、朝一番に商談に来たよ】

澤井さん?

少し会ってないだけなのに、もう長い間会ってないような懐かしくて胸が苦しくなるような気持ちになる。

【澤井さんが、どうして真琴が休みなのかかなり気にしてたから、ごめん、お父さんが入院して今店のことで忙しくしてるって言っちゃった 亜紀】

澤井さん、今の私がどういう状況か知ってしまったんだ。

その瞬間、どうしようもなく彼に会いたくなる。

この心細くて情けない気持ちになってる私をぎゅっと抱きしめてもらいたくなる。

そんなわがままなこと、今の私に言えるはずもないのに、今までのこと全部澤井さんの記憶から消し去ってその胸に飛び込みたい。

30前にもなって、いつまで子どもみたいな甘えたこと考えてるんだろう。

澤井さんに会うまでに、もっときちんと自分の気持ちを整理してその思いを告げることの方が先だっていうのに。