「どうしても無理でしょうか」

クーラーボックスを抱える手をぎゅっと握りしめながら身を乗り出す。

「申し訳ありませんが、菓子職に従事したことのないあなたにうちの抹茶を生かせる菓子を作れるとは思えない」

「そう思われても仕方がありません。でも私は父から抹茶プリンの作り方はしっかりと引き継いでいます。それで、今日こちらを」

支店長は私が言い終わらないうちに立ち上がった。

「申し訳ありませんが、お父様が復帰なさってからまたご相談願います。私も忙しいので店に戻らせて頂きます」

そう言うと、私に軽く頭を下げ部屋を出て行ってしまった。

クーラーボックスを抱えたまま、どうすることもできなかった。

受付の女性は「申し訳ありません」と半分泣きそうな顔で頭を下げている。

こんな思いを味わったことは今までなかった。私だけでなく、父や山川さんまで侮辱されたような気持ちにさえなる。

私は前髪を掻き上げると、大きく深呼吸した。

そして扉の前でうつむいたまま立っている受付の女性に歩み寄った。

「連日お気を遣わせてごめんなさい。昨日、うちのスタッフと一生懸命作りました。よかったら今日のおやつにでも皆さんで召し上がって下さい。お口に合えば嬉しいです」

そう言ってクーラーボックスを手渡した。

「頂いてよろしいんですか?」

「誰かに食べてもらった方が私達も嬉しいし、こちらの抹茶は本当においしいから。プリンにしても抹茶の香りがいつまでも口の中に広がります。是非味わってみて下さい」

落ち着いた雰囲気で大人っぽく見えていたけれど、この女性は私よりも随分若いのかもしれない。

クリンとして大きな目が嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます。大事に頂きます」

その笑顔と言葉に少しだけ自分の気持ちが納得していた。

これでよかったんだと思うことにする。

私は女性に丁寧にお辞儀をして部屋を出た。