「お父さん、しばらく入院するからお店に立てないでしょ?その間、私と山川さんでお店を開けたいと思ってる」

「そんなことお前にできるか?それに、真琴の仕事はそんなにも長い間休めるのか」

「職場には相談してみる。今まで年休もほとんど取ってないからたくさん残ってるし」

「で、一体二人で店に何を出すつもりだ。いい加減な菓子なら出さない方がましだ」

父はぷいと横を向く。

「山川さんとさっき相談したんだけど、おはぎは山川さん、私は抹茶プリンと和三盆ロールを作ろうと思ってる。もちろん、数量や味は普段のようにはできないかもしれないけれど、お店を開けることがお父さんにとって大切なことだってわかってるから」

「うむ」

父は黙り込んだ。

「少し考えさせてくれ」

「うん、わかった。しんどいのに長居しちゃってごめんね。また明日来るから」

「毎日来なくていい。それより、お前、例のほら、あの背の高いあいつとはどうなってる?」

父は言いたくなさそうに、私から顔を背けたまま尋ねる。

「澤井さんの話は、うん、また今度落ち着いてから」

まさか今彼の家を出てきてるなんて言えるはずもなく。

これからどうなるかもまだわからない。

父はその言い方で何かを感じ取ったのかそれ以上尋ねることはなかった。

「じゃ、今日はゆっくり休んで」

「ん」

父は私に背を向けたまま、片手を挙げてバイバイと手を振った。