「司書のおすすめコーナーに載っていた本は、ほとんど読みましたよ。どれも外れがなかった。さすが司書の先生ですね」
「ありがとう。実は司書だよりの感想を生徒にもらったのは初めてなのよ。……嬉しいわ」

 大げさではなく、本当に嬉しかった。読者がいるのかどうかも分からず、教室に貼られても色褪せて翌月には取り外される紙切れを見ていると、こんなもの発行しても仕方ないんじゃないか、という気持ちに駆られることもあった。

 それでも続けてこられたのは、本が好きだからと、自分が好きな本を誰かに読んでもらいたい、そして本を好きになる生徒が一人でも増えたら――、そんなささやかな願いを持っていたから。

 だから、紙面の四分の一を占めている本や作家の紹介は、毎回丁寧に作っていた。図書室の新刊の紹介や、図書委員からのお知らせの欄はパソコンで作っていたけれど、そこだけは手書きで描いていた。
 本屋さんにあるポップと同じで、ワープロの文字よりイラストを添えた手書きのほうが、不思議と人の目に留まるものだから。

 私がお礼を言うと、一条くんは歯を見せて笑った。
 笑うと顔のラインが幼くなり、少年ぽさが際立った。大人っぽく見えても高校生なんだ、と感じた。

 その若さがこんなふうに、急にまぶしく思えるときがある。それは突然訪れるから、とっさに手で遮ることもできず、陽射しに目を細めるしかない。
 彼らは季節で言ったらきっと夏だから。夏の陽射しは、避けて通るより全身に浴びてしまったほうが楽だし、気持ちいい。私のような職業にいるなら、なおさら。

「おすすめの本、ね……。どうしようかしら」

 指輪物語とカードを一条くんに返し、私は真剣に悩んだ。

 こんなに真剣に本と向き合っている生徒なんだから、私も真剣に選んであげたい。今まで司書だよりには紹介していない本で、一条くんが興味を惹かれそうな本。