だいたい私は、人に本を紹介するときや貸すときに、必要以上に悩んでしまう性質なのだ。
 自分が面白いと思って貸した本でも、相手がイマイチと感じることだってある。そうしたら、相手だって感想を言うときにこちらを気遣ってしまうし、それに気付いてしまったら(たいていは相手の煮え切らない口調で気付いてしまうのだけど)、自分の好きな本が相手には気に入られなかった事実に、軽く落ち込んでしまうのだ。作者でもないのに。

 まわりの親しい友達は、私の読書好きを知っていて、「映画化されたアレの原作、持ってる?」などと頻繁に訊ねてくる。そういう場合は楽だ。相手が読みたがっていることがはっきりしているんだから、相手が読むのが楽しみだと思えるように、もしくは途中で挫折しないように、おすすめポイントをいくつか挙げてから貸せばいい。

 親しい友達なら、おすすめの本を貸してと言われても、その友達の性格や本の好みを把握していれば、「これは好きそうだな」とアタリをつけられるから問題ない。

 でも、一条くんの場合。彼の性格も分からない。本の好みも分からない。好きなジャンルは特になし。
 ――これではさすがに頭を抱えてしまう。

 比喩ではなく本当に頭を押さえてしまっていたようで、一条くんが慌てた様子で口を開いた。

「あの、そんなに悩まないでください。そんなに大げさに考えなくても大丈夫ですから。……それとも、余計なこと頼んじゃいました? すみません」

 最後は本当に気遣う口調になって、カウンター越しに心配そうな顔で私を覗きこんでくる。

「ううん、違うのよ、大丈夫。ちょっと真剣に考えてみたかっただけだから。ほら、司書としての威厳もかかっているしね」

 冗談めかして答えると、ほっとしたのか、やっと一条くんは肩の力を抜いた。

 指輪物語を鞄にしまいこむ一条くんを見ていたら、一冊の本が、頭の中で豆電球が灯るようにひらめいた。

「あ、あの本なら……」

 そうつぶやいたとき、一条くんがぱっと顔を輝かせた。