ペチペチ…と、誰かが自分の頬を軽くたたいていることに気づいた。

「――起きて、こんなところで寝てたら風邪をひくわよ。

ほら、起きなさい！」

声をかけられた後で両肩を強く揺さぶられて、紗綾は目を開けた。

「――ッ…」

目を開けた瞬間、ウェーブがかかったこげ茶色の髪に緑の瞳の美しい顔の女性が自分の顔を覗き込んでいた。

先ほどの声の主は彼女のようだ。

「よかった、気がついたみたいだね」

目玉を動かして声の方に視線を向けると、黒髪にアンバーの瞳をしたハンチング帽をかぶっている青年だった。

年齢は彼女と同じくらいと言うところだろうか？

紗綾は躰を起こした。

（――私、死んでいない…？）

自分は冷たい海に身を投げて死んだはずだ。

なのに、死んでいないと言うのはどう言うことなのだろうか？