彼とは長い付き合いで、幼い頃からお互いのことを知っている。
趣味も同じ、好きなものも一緒。
暇な時間があればくだらない話をする。
そんな男友達。

ーだった。

長い時を彼と過ごす中で、いつの間にか抱いた思いは好きって気持ち。
一緒にいるだけで幸せで、他の女の子と話しているところを見ると胸がザワザワして、落ち着かない。
その理由がなんなのか、その時の私は知らなかった。
でも、

「杉原くんが好きです!」

見てしまった。彼が告白されている所を。
胸の鼓動が早くなる。ずきんずきんと、痛みもする。苦しくて苦しくて、何故か泣きたくなった。

ああ、これはきっと

恋なんだ。

それからの私は、今まで普通にしていた顔を近づけて話すことも、彼と一緒にいることも、些細なことでさえ、意識してしまっていた。

ある日、彼から聞いた。

「好きな人がいる」

そういった彼の横顔はあまりにも綺麗で、見とれてしまった。
けど、やっぱり胸が痛い。
倒れちゃいそうなほど、どんどんどんどん痛くなってく。

「そっか」

当たり前に返したような言葉も、どこか震えてて、辛くて辛くて泣きそうになった。

耐えられなくなって、逃げるように帰ろうとした。でも君は

「大丈夫?」

なんて、優しく言わないで。
私はあなたが好き。でもあなたは他の誰かを好きでいる。
ただ、つらい。
大好きだった彼の笑顔を見るのも、声をきくのも、目を伏せてしまいたい、耳を塞いでしまいたくなった。

その日の夜。
彼に抱きしめられる夢を見た。
夢の中の私は、幸せの気持ちでいっぱいで、この時間が一生続けばいいと願ってた。

朝起きれば、頬に濡れた感触が残っていた。
幸せな夢とは引き換えに、現実は失恋に近しい。
寝てる間でさえも、苦しんでいるようで嫌になった。

卒業式。
周りを見渡せば、涙を流す生徒達。
めまぐるしく校庭を見渡して、彼を探す。
サラリと風に揺れる綺麗な黒髪。
私の大好きな横顔を、私の瞳が捉える。
1歩踏み出して、彼の元へと向かう。
ぎゅっと、彼の制服の袖を掴んで、こちらに振り向いた彼を見て

「すきです」

やっと言えた。
周りに人だっていた。
でもそんなことは気にしない。

彼を見つめていれば、たちまちその表情は笑顔に変わり、見とれていれば

背中に回る、手の感触。

頬に感じる暖かさ。

桜の舞う中で、私は抱きしめられた。
鼓動が早くなって、彼の制服をぎゅっと握る。

耳元で囁かれた、大好きなあなたの声。
泣きたくなって、彼の胸に顔を押し付けて大泣きした。

泣き止んだ頃には、彼の制服にはしわができていた。

私の目尻を親指で撫でる愛しい人。
まるで壊れ物に触れるかのように、大事に触れられた。

そのことにまた泣きそうになって、彼の制服の袖をぎゅっとした。

大人になった。

制服はまだ残してある。アイロンをかけずに、しわのついたまま。

あのしわは、2人の大切な思い出だから、って。

見るたび、思い出す。

大切な人との思い出を。