「勢いか……優秀な秘書殿が珍しい」
「フフッ、珍しくても良いでしょう?」
醜くても、情けなくても、辛くても。
私はこの子と生きると決めた。
それ以外、もう何も要らないの。
「なら、戻ってこい」
「え―……」
泣かないように、笑っていた私にそう言った吊戯。
「待っている。その間に、社員用の託児所も作っておいてやる。だから、帰ってこい」
「……」
「これからだから……1年、2年か?いつまでも待ってるから、また、俺の秘書として働いてくれ」
吊戯の優しさに、涙があふれる。
そっか。
気持ちは溢れると、涙になるのか。
「っ……」
「泣くな、夏咲」
「ありがと……吊戯……」
「お前には世話になったし、良いんだよ。ありがとう、井上秘書」
手を差し出されたから、私はそれを握り返した。
「こちらこそ。ありがとうございました、社長」
この人には、一生感謝し続けるだろう。
いつかまた、会える日が来たら。
その時は、子供を連れてくるね。