「社長」
朝早く。
私はあの夜の相手に……有栖川部長に会わないように、早めに会社に向かった。
そして、社長室で、社長と対面。
「どうした、夏咲」
まだ、始業時間ではないからか、彼は私を名前で呼んだ。
「あのね、これを受け取って」
だから私も、タメ口で話す。
辞表を差し出すと、
「……これを出すってことは、何かあったな?」
彼は驚くこともなく、受け取ってくれて。
「うん。妊娠したの」
「……」
ありゃりゃ……これには、流石に驚いたみたい。
瞠目する社長……吊戯は、
「誰の子?」
「……言わなきゃダメかな?」
質問がそれ?って、感じなんだけど。
「俺も知ってるやつ?」
「うん」
「……責任は取らせねぇの?」
「うん」
「優しいな」
「えー?そんなんじゃないよ」
私は、優しくなんてないよ。
これから、この子に辛い思いをさせるかもしれないんだよ。
自分が傷つきたくないから、彼にぶつかる強さがないから。
「結婚は?」
「しないよ〜相手は知らないのよ?」
「……何で、そんなことに」
「勢いかな」
あながち、間違ってはない。
だって、私、熱に浮かされた記憶はあっても……抱かれていた間の記憶、ハッキリないもの。
何かを言われてた気がするけど、覚えてないし。
だから、ここでは名前を出さない。
有栖川部長は、吊戯とお友達だもの。