「昔から、あんな感じなんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。何かあると、御門が一番最初にぶつかるのは、由希子(ユキコ)だった。私が家にいなかったから」
和菓子のことはよくわからないけど、家元となれば、忙しいんだろう。
いつか、御門も家を継ぐ。
何の知識も、後ろ盾もない私が、そんな彼を支えられるんだろうか。
不安は沢山ある。
無いなんて、言えない。
けど、御門といたいから。
私は立ちあがり、御門に寄った。
「……夏咲?」
不思議そうに、名前を呼ばれる。
「どうした?」
彼に名前を呼ばれるのが好き。
安心できるから。
「んーん……」
寄りかかると、そっと抱きしめられた。
「……帰るか?」
柔らかな声は、この世界で1番好きな音。
「…………ありがとう、御門」
「え?」
「私を妻にしてくれて、家族にしてくれて、家族をくれて、ありがとう」
ずっと憧れていた、夢見に続けていた日々を、彼が実現してくれた。
だから今、私は世界一の幸せものだと言えるんだ。