分かっていた。
あの夜の選択は、彼女を傷つけると。
それでも、止まれなかったんだ。
あの夜。
『うわっ、井上さん眠っちゃったよ……』
部署の飲み会で、吊戯はいなかった。
いつもはシャンとして、あまりお酒を口にしない井上夏咲。……俺の想い人は、周囲に勧められるままに飲んだ酒で泥酔していた。
出会いは、吊戯繋がりで。
いつもキッチリしている彼女が見せる笑顔が、無防備さが、俺の心をいとも簡単に掴んで。
好きだ、そう自覚した時には……もう、引き返せなかった。
家は老舗の和菓子屋だ。
今は良くても、後に彼女を傷つける。
分かっていたから、想いを伝えられなかった。
それに、吊戯と良い雰囲気でもあったから。
なのに……。
『俺が送る』
神は、俺にチャンスをくれた。
その日、車で来ていたのは俺だけで。
だから、もちろん、酒だって俺は飲んでなかった。
残業明けで、そんな気分じゃなかったんだ。
井上を抱き上げた時のあの感覚……軽すぎて、驚いた。
簡単に抱きあがる彼女の華奢さが、より、愛しく思わせた。
車に乗せ、家に連れ帰ろうとし……俺は気づく。
そう言えば、彼女の家を知らないと。
だから、自分の家に連れ帰った。