(は? 黒豹のプリンス? しかも、私の許婚!?)


訳が分からない……と言いたくなったけれど、変に刺激して逆上されると困るので、その言葉を飲み込んだ。

こんな相手には適当に合わせて、無難に時が過ぎるのを待つに限る。



「そ……そうなのね。それでは、プリンス様。今日は何時間のコースをお望みでしょうか?」

私が無理矢理に営業トークに入ろうとすると、彼は不思議な顔をしながらも、きっぱりと首を横に振った。

「コース? いえ、あなたは私と一緒に帰るのです」

「は? 帰る?」

「はい。黒豹の国『パンター』へ」

「はぁ……」


(ダメだ、こいつ……値段交渉もできそうにない)


店にギブアップの電話をかけるため、バッグの中のケータイに手を伸ばそうとした時だった。



「それでは、今から『パンター』への扉を開きます」


『黒豹のプリンス』と名乗るその男は、何語なのかも分からない呪文を唱え始めた。


(まぁた、意味の分からないことを始めた……)


私がそう思った時だった。


(ドゴォォーン!)


「キャッ……!」


突如、物凄い地響きとともにそのホテルルームの床と天井がひっくり返ったような感覚に襲われて。

私は思わず目を瞑った。


(何?)


私が恐る恐る目を開けると……


「何、これ……」


信じられなかった。

何と、その部屋の柄がさっきまでとガラッと変わっていたのだ。

黒い壁によく見ると、薄っすらと浮き出るまだら模様……黒豹柄。