「だって、あなた。私と甘い時間を過ごすために、指名を下さったのでしょう?」


彼の反応に多少、違和感を覚えながら尋ねると、返答はさらに噛み合わなかった。


「甘い時間? いえ、それどころではありませんでしたよ」

「えっ? いや、だって、そのために呼んだんじゃ……」

「だから……こちらは、もう必死で。お転婆なあなたを、夜も眠る暇もなく探し回っていたのです」


(何を言ってるんだ、こいつ?)


私は辻褄の合わない会話に眉をひそめた。

だが、黒豹姿の彼は真顔で続ける。


「忘れておいでなのですか? 私はあなた……プリンセスを探して。突然に行方をくらましたあなたを見つけるために、この世界に来たのです。そして、やっと見つけた。だから、今のあなたの付き人にテレパシーを送って、この異世界境界へ連れて来てもらったのです」

「は……はぁ」


(何、こいつ? 電波系?)


私は真剣な顔で言うこいつの有り得ない妄言に顔をしかめた。

顔はカッコいいのに……最早、私の中でこいつは、変質者と同じ部類に振り分けられた。


「そ……それはそうと。あなたのお名前は、何と呼べばよいかしら?」


私は取り敢えず、話を逸らしてみた。


「何と……私をお忘れなのですか?」


彼は瞳を潤ませ、悲しげな声を上げた。


「え……えぇ」


というか、今日が初対面なんだけど……というツッコミは通用しそうになかったので、やめておいた。


「私は黒豹の国のプリンス……あなたの許婚です」