ここに……。

俺の愛する妻は監禁されているんだ。


なんてひどいことを……。



「リカ……」


リカを救い出そうと、名前を口にした瞬間……。



「あ~! やっぱこの部屋落ち着くわぁ!!」



少し枯れてはいるが、それは紛れもなくリカの声だった。


しかも、すごく楽しそうな感じで。




「この部屋はやっぱりいいよ。コウタのアパートは落ち着かないしなぁ」



……なんですと!?

俺の、あのきれいなきれいな部屋が落ち着かない?


いや、毎日あの部屋をきれいにしているのはおまえだろ、リカ。



「そろそろ帰って、アパートを大掃除しなきゃ。コウタにバレたら大変だぁ」



俺がすぐそばにいることなんか気づきもせず。

リカは呑気に独り言を呟いている。



アパートの大掃除?

俺にバレたら大変??


急に、背筋がゾクゾクッと寒くなるのを感じた。





それから俺は、リカの顔を見ることなく、アパートへ猛ダッシュで帰った。


まさか……まさか……。



部屋の前。

ゴクリと生唾を呑み込み。

大きく深呼吸をして、ドアをゆっくりと開けた。




「な……、なんじゃこりゃ~!!!!」




俺の目の前に広がる光景……。




この部屋は……。

近隣住民のゴミ収集所にでもなってしまったのか?





   ◇リカside◇



やばいっっ。

マジやばいってば!!


会社で倒れて。

実家で休んで……。


実家に……あたしの部屋に、コウタが来たですって!?


コウタってば宿泊研修のはずでしょっ!?

帰ってくるのは明日のはずなのに~!!



もう、お母さんもなんでコウタに連絡したわけよ!!


コウタも、どうして仕事より妻を選んだのよ!!


ものすごく迷惑なんですけど~!!!!




フラフラしながら、ようやく帰り着いたアパート。


うっ……。

電気が点いてるよ。

今頃コウタ、発狂しているよ、きっと。



ドクドクと鳴り止まない心臓を押さえながら、ゆっくりと部屋のドアを開ける。


あぁ、確か……。

玄関には脱ぎっぱなしの靴下とジーンズが放置されているのよね。



「……あ、あれっ?」



――ないっ!?




ひょっとしてあたし、洗濯物の中に入れたのかな。


首を傾げながら、静かに中へと入っていく。



あらっ?

あらら??



この部屋……。

あたしのオアシスになっていたはずなのに。

コウタ好みのきれいさっぱりな部屋に戻っている。



………。


誰が片付けたの――!?



「おかえり、リカちゃん」





「コ、ココ、コウタっ!!」



コウタ。

すっごい怒っているときは、あたしのこと『ちゃん』付けで呼ぶんだよね。


……てことは。

この部屋を元通りにしたのはコウタだよ。



「部屋が、すっげーことになっていましたが?」


「……あ、え~っと……。泥棒さんが……」


「戸締りを完璧にして出て行く泥棒がどこにいんだよっ」


「じゃあ、隣のミケが……」


「猫に無実の罪をなすりつけんな!!」




ううっ……。

どうしよう。どうしよう。


もう、カミングアウトしちゃう!?



……いや、もうバレてるんだよ。

実家のあたしの部屋を見た時点で。



「リカ」


「……はい」


「おまえ、こういう性格だったのか?」


「………はい」



もうバレたんだし。

これ以上隠し通すことなんかできないよ。




「………」



コウタ、呆れたようにあたしを見てる。

ねぇ、なにか言ってよ。



「コウタ……」



長い長い、沈黙。

重苦しい空気。

カチカチと部屋中に響き渡る、壁に掛けられた時計の秒針。



「ごめん。俺、今日は外でメシ食ってくるわ」


「コウタ!」



そう言ってコウタは、あたしと視線すら合わせずに部屋を出て行ってしまった。