裏通りを通って小道に入ると何段もの石が積まれ階段になっている。その上は高台になっていて沢山の木が生えている。石段の1番上から見下ろす町は異世界を思わせる。

「あなた...さっき見てた子でしょ」

急に話しかけられて驚いた私は木陰にうっすら見える紫のシルエットを見つけた。

「こっちおいでよ」

言われるがままに体が動く。

「ここ、涼しいよ」

彼女が発する言葉一つ一つが私の胸を締め付ける。心臓がバクバクと音を立てる。

「さ、さっきは...きれいだなって」
私は慌てて何かを言わないとと言葉を発した。
彼女は落ち着いた微笑みを見せてから言った。

「えみ」

その発された言葉に戸惑って口をぱくぱくさせていると彼女は笑って言った。

「私の名前よ」

我に返った私は゛あぁ゛としか言えずただ彼女の横顔を見つめた。

この世界にこんなにも綺麗で美しい女性がいるだろうか。手足は細く、大きな目に長いまつ毛。白い歯に赤ちゃんのような肌。紅く色付けられた唇はふっくらと柔らかさを思わせる。
「えみさんって綺麗な人」
私は見とれながらつい発してしまった言葉に困惑して顔を赤くした。
「あら。ありがとう」
えみさんは優しく笑って、いたずらに履いていた下駄を足の親指で弄んだ。赤く色付けられた指の爪もとても綺麗。

「あなたの名前は。」

えみさんが私を覗き込んで聞いた。
ほわっと香る懐かしく優しい匂い。
「まこ...です」
「かわいい」
蝉の鳴き声がいつの間にか止み、夜の虫たちが涼しさを呼ぶ。
「もうこんなに暗くなったのね」
えみさんが立ち上がって大きく伸びをした。
「あっ。打海と約束してたんだ」
私も立ち上がりお尻の誇りをはたいた。
「彼氏さんいるのね」
私は照れながら頷いた。
「夕方」
またもいきなりの言葉にはてなが浮かんだ。
「夕方なら私ここに居るから」
えみさんは寂しそうにそう言った。
「夕方...来ますね」
私はそう言い残して石段を駆け下りた。