7月。蝉が鳴いている。
1週間という短い日々をただずっと鳴いている。
私はここにいるよ。ここで生きているんだよって。
死に際、蝉は何を思うだろう。
何を感じるのだろう。

お祭りなど、ただの伝統行事に過ぎない。
だから1人で浴衣を着てぼーっと歩くだけ。
特に誰と約束しているなんてことは無くて、思うがままにここに来ただけの事。
淡い紫の浴衣は去年、お姉さんから貰ったもの。大小、大きさの違う蝶と橙色の線で描かれた花は上品で美しい。この浴衣はあの人こそ相応しかったのだろうとぼんやり思った。
屋台が並ぶ瀬田神社の通りは、恋人たちや親子連れで賑わっている。
「おはな。」
いきなり話しかけられて下を見ると浴衣の裾をぎゅっと握った女の子がいた。
「迷子かな?」
私が尋ねると女の子は首を横に振って言った。
「ママあっち。おねぇちゃんだっこ。」
両手を広げておねだりすると口をむっと膨らませた。
「しかたないなぁ」
女の子を抱き上げると赤ちゃん独特の甘い匂いがした気がした。
「子供っていいな。」
ぼそっと呟いた言葉に女の子は意味もわからないのににんまり笑った。
「あいちゃーん。」
そう呼ばれた女の子はありがとうと言って私の元を離れていった。

いつも耳元であの人の声がする。
賑わっているこのお祭りも関係なく。
頭によぎる映像はずっとこだまする。
「大丈夫。大丈夫。よしよし。よしよし。」
あの頃はまだ子供だった。いや、少なくとも大人だとは思っていた。
「うちの子反抗期なかったんですよね~」なんて親は近所のおばさんとの会話でよく言うけど、反抗期がなかった訳じゃない。
ただ反抗期すべき手段が違っただけ。