「そう。それで十時頃に来たらちょうど奏ちゃんがバイトの面接の人が来るところだって言うから奥で待ってたの。そしたらあの騒ぎだもん。びっくりしたわ」

 そこまで言って、佐保ちゃんはまじまじと奏輔さんを見た。
「奏ちゃん、まさかほんまにあの女の人が何で怒ったんかわからへんの?」

「土日のどっちも入れんのは困る、って言うたからか?」
「ちがうわよ。それはあの人もちょっとごねたけど、最終的にはいいって言うてたやない。その後よ。じゃあ、一応採用っていうことでーってなってその後」

「俺、なんか言うたか」

「言ったどころの騒ぎやないわ。バイトの時はちゃんと髪はまとめて、っていうところまでは分かるけど、『そのバブルの生き残りみたいなケバいメイクはどうにかして』だとか『山姥みたいな恐ろしい爪は切って来い』だとか、挙句の果てにリップグロスのことを『その天ぷら食ってきましたみたいな唇、いいと思ってやってるん?』とかめちゃくちゃ言ってたじゃないの」

私は思わずこめかみを押さえた。

「はあ? 俺そんなん言ったか?」
「言ってましたー」
 私の冷ややかな視線を感じてこちらを見た奏輔さんが真顔になった。

「あ、いや。ちゃうねん。そらそれに近いことは言うたかもしれんけど。飲食店の店員に清潔感が大切っていうのは確かやろ?」

「それは確かにそうです。間違ってません。でも……」

 そこで言葉を切って私は、はったと奏輔さんを睨みつけた。