倉橋佐保ちゃんは「ならまち」の中にある仏具店「春日堂」の孫娘さんで現在は近くの中高一貫の女子校に通っている中学三年生の女の子だ。

 佐保ちゃんのお祖母さんとうちの祖母が親しいことから、小学生の時から祖母の茶道教室にも通っていて、その縁で時々「あじさい堂」にもお手伝いに来てくれている。

 もちろん、佐保ちゃんの通う「若草山女学園」はこのあたりではなかなかの名門進学校で、アルバイトなどは厳しく禁止されているので、あくまでも「知り合いのお店のお手伝い」という体である。ここ奈良は観光名所なだけに、お土産屋さんや飲食店、旅館など観光産業を営んでいるお家の子も少なくないので、そういった形の「お手伝い」は黙認されているとのことだった。

「もうすぐ仲秋の名月だし今、さっき『花たちばな』さんに寄ってきたんです。佐保ちゃん、生け花も習ってるから手伝って貰おうと思って」

佐保ちゃんのお祖母さんもうちの祖母と同じく、お茶にお花、着付けに三味線、琴に日舞、なんでもござれのツワモノで、そのお祖母さんのもとで育ったサラブレットの佐保ちゃんは、若干十四歳にして和の習い事を一通り身に着けているというスーパー大和撫子の卵なのである。