保健室にいた先生は用があるからと保健委員の美優に任せて出ていってしまった。
頬の痛みはもうなくて少し赤いだけと口の中が切れているくらいで大したことはなかった。

「ほんとに遅くなってごめんね。まさかビンタされるなんて思わなかった。」

一応と氷水に冷やしたタオルを頬に当てながら申し訳なさそうな美優をみる。

「美優が謝ることないよ。避けられなかった私も悪いし。まぁ、これで先輩のファンの人達に目をつけられることもなくなると良いけど。」

「それは大丈夫でしょ。先輩、本気で怒ってるみたいだったし。私が朱莉が先輩のファンの人達に呼び出されたって教えた時も凄い顔してたし。」

「…そうなの?」

ものすごい勢いで頷いてる美優を見ていると、保健室のドアが空いて、優と3年の学校で一番美人と言われてる女の人が入ってきた。
また黒髪ショートのモデル体型だ。

「…お前、なにしてんの?」

椅子に座って頬にタオルを当てているまぬけな私に一瞬目を見開いてからドスのきいた低い声で聞いてくる。

「優?知り合い?…まぁ、どっちでもいいけど。早くベットにいきましょ?今なら先生いないみたいだし。ほら、あなたたちも早く出ていって。これから私たちがすることを見学したいなら別だけど。」

いかにも女王様気取りの先輩を尻目に私と美優は無言で立ち去る。背中に優の視線を痛いほど感じながら…。



『ほんっと感じ悪いわー!何あの先輩!ちょぉーと美人だからって人をハイエナみたいにしやがって。うちらの方が先にいたんだし!てか、こっちは怪我人なんだってーの!うぅー…でも面と向かって言えないのが悔しい…』

美優と別れるまでの間、ずっと保健室での出来事について美優は怒っていた。よほどムカついたみたいだ。私もだけど。それに…私達が出ていったあと、あの部屋で二人がしたことをどうしても想像してしまう。教室に戻ってきた優は明らかに乱れていて、誰の目にも明らかだった。

周りを警戒しながら、優の家に入る。帰り際、今日も女の子達に囲まれてる彼を見て、きっとこれからその子達とデートでもするのだろう。全く…こっちは気が狂った先輩達に絡まれて殴られたっていうのに。…でも、あの人たちもきっと奏汰先輩のことが好きだから、私の事が許せなかったのだろう。なら私は…?
今日優と美人な先輩を見て、ショックを受けた?代わる代わる彼女を入れ換える彼をみてあきれたことはない?
そんな彼を見て、まだ好きだと言える?自分からアプローチしたこともないのに、彼女達のことをとやかくいえる立場にはないだろう。
うーん…もしかしたらもう優のことはそんなに好きじゃないのだろうか。

ていうか…好きって何?
そもそもそれすらも分からなくなってきた。


「はぁー…もう嫌だ。」

「何が嫌だって?」