「…てことだから、よろしくね?」

「え、ちょ…!そんな急に言われても!一人で大丈夫だよ?」

そんな私の言葉なんて耳に入らないのかお母さんとお父さんはニコニコしながら外に出ていく。後を追って私も出ていくと二人と同年代の夫婦がこちらもニコニコしながら

「おはよう、朱莉ちゃん」

「お、おはようございます…」

そのまま四人は仲良さそうに一台の車に乗り行ってしまった。

(嘘でしょ…)

ピロリン

ズボンの中のスマホが震えた。

ー優くんと仲良くね

ー優をよろしくねby洋子

「はぁー…」

能天気な母親二人のニヤニヤ顔を思い浮かべながら学校に向かった。


「え!これから1ヶ月朝比奈くんの家に住む!?しかも二人で?!!」

「しぃーっ!声が大きいよ」

まだ教室には数人しかいなくて当の優はまだ来ていなかった。

「ごめんごめん。で、なんでそんなことに?」

今朝、朝食を食べいつも通り下に降りると、両親が何故かスーツケースを持って立っていた。不思議に思いながらもテーブルにつくと

「じゃ、朱莉。優くんと仲良くやるのよ?」

まるで普段通りの朝かのように意味不明な言葉が放たれた。

「え?」

「あら?言ってなかったかしら。これからパパと優くんの両親と1ヶ月海外に旅行に行くって」

「いや…聞いてないけど」

別に行くなら行くでいいのだけれど…なんで優が?出てくる?

「それであんた一人だと心配だから隣の優くんの家に泊まるのよ。」

それで冒頭に戻るのだ。


「……なるほどね。仲いいんだもんね?あんたたち家族。」

そうなのだ。私の母親と優の両親は高校の同級生で親友。だから、結婚しても交流は続いていた。家もわざわざ隣同士に建てたのだ。

「だからって、隣に預けようとする?もう高2だよ?そ、それに…」

「それに?」

血気盛んな年頃の男女が一つ屋根の下。何もないわけが…ないでしょ?

「…まぁね。でも、あんたなら大丈夫でしょ」

そういって美優はドアのところを見た。その視線の先には彼女と手を繋いで教室に入ってくる優だった。しかも、彼女はこの間見た子とは違っていた。

「…そうだね…」

今回もまた黒髪ショートの美人さん。ここまで好みが変わらない人と一緒に1ヶ月いたところで二人の関係は変わらないだろう。
第一私と優は中学以来まともに話してはいなかった。

大きくなるにつれて優は当たり前かのように学校の人気者に。私はクラスの端で女同士話しているようになった。要するにグループが違ったのだ。それでも月1くらいで二人の両親が開く食事会の時にはそれなりに喋っていた。
だけど…中学2年の9月。いつものようにお母さんのコーディネートによっていつもより綺麗になって隣の家にいく。そこにはおじさんとおばさん、…と目を見張るような女性がいた。小6のあのクリスマスパーティー以来、優はそういう食事会に女の子を誰も連れてきていなかったのに…
気づかないうちに彼女ができていたらしい。
黒髪ショートの。それからは毎回食事会があると彼女を連れてきていた。そのうち食事会事態にも来なくなって今では私も行かなくなり親四人でやっている。

一回、彼女をこっちに見せびらかしてくる優にムカついて私もその当時仲良くしていた男子を誘ったことがあった。もちろん私の気持ちはその男子も知っていた。ただなんとなく私だって彼氏くらいいるんだぞと知ってほしかったのと願わくばやきもちを妬いてほしかったのだ。
まぁ、その作戦はあえなく失敗してなんの反応もなかった。

(…今回もどうせそんな感じなんだろうな)

深々ため息をつく朱莉を優が見ていることに気づいている人は誰もいなかった。