気持ちを切り替え、私たちは墓石の掃除を始めた。

落ち葉を拾ったり雑草を抜いたりする私のそばで、雪成さんはかじかむ手で墓石を洗いながら、いくらか明るくなった声で言う。


「ふたりを亡くした当時はしばらく抜け殻状態だったけど、一年くらい経ってようやく前向きになって。ちょうど会社のブラックさにも嫌気が差してたから、俺ならこう改善するのにって考えてたら、もしかしたら新しい会社やれるんじゃねーか?って思いついたわけ」

「それでその通りにできちゃうところが……やっぱり天才ですね」

「だろ」


脱帽する私に、彼が得意げに言うから、ちょっと笑ってしまった。自信家な雪成さんが戻ってきてホッとする。


「前も言ったけど、これはこれで合ってると思うんだ。元々、自分のやりたいようにやる性分だったから、社長も天性かなって」


彼はそう言い、墓石に水をかけた。みるみる綺麗になっていくそれを見ながら、私は幾度となく彼を尊敬する。


「料理人の道を進めなかったのは切ないですけど、どんな方法でも、もう一度立ち上がった雪成さんはすごいです。私も、いい加減にけじめをつけなきゃ……」