ご両親を亡くした喪失感から、長年抱いた夢や目標すらも失くしてしまったのかと思うと、胸が痛くて仕方ない。

私のほうが泣きそうになり、地面に視線を落として歩いていると、ひとつの墓石の前で雪成さんの足が止まった。

以前親族の誰かが供えたのだろう枯れた花と、“不破家之墓”と刻まれたそれを見下ろしたまま、彼は本音を吐露し続ける。


「墓参りすらしちゃいけないんじゃないかって思ってたし、自分の傷を抉ることになりそうで正直少し怖かったんだ。でも今は、ひとりじゃないから自分の弱さに負けないでいられる」


いつかも見た、冬の夜空のように切なく澄んだ瞳がこちらに向けられる。その瞳に春の日が差し込んだかのごとく、穏やかな笑みが生まれた。


「麗が無理やり機会を作ってくれなかったら、これからもここに来ることはなかったよ。だから、お前には感謝してる。こんなとこまでついてきてくれて、本当にありがとう」


丁寧にお礼を言われ、私はこぼれ落ちそうになる涙を必死に堪えながら、不細工な笑顔を作った。

雪成さんは囚われた過去から一歩踏み出せたのだ。ご両親のことや、夢を断念したことは悲しいけれど、憐れんでいないで今の彼を支えてあげよう。