ある夕暮れ。


僕はステージに上がる。


「さて!今日の商品はこちら!」


そう大きな声で喋る商人たち。


「有名なカルツ施設で育てられたこの少年!普通の人間よりも長生きするという種族の一人!」


そう。僕はそこで色々な事を叩き込まれた。


主人には忠誠を誓うこと。


それに関して歯向かわないこと。


何を頼まれても出来るくらいの知能。


何をされても耐えられるほどの耐久性。


そして今ここにいる。


生まれた時から教育された事。


それだけを見ると僕がここに立つのが偉いという大人は馬鹿みたいに思えた。


一斉に札を上げる大人達。


あぁ。もうそろそろ決まるだろう。


僕の【主人】が。


「さて!これ以上は居ないですか?でも流石に2億以上はいないよなぁ!さてじゃあそこのごしゅじ…」


「5億。」


その瞬間ステージが一瞬で静まった。


「お、お姉さん?今なんて?」


「5億と言ったんです。その子、渡してくださる?」


そう言って僕は商人にその女性の所へ連れていかれる。


どれくらいの桁かはわかる。


さっき2億といった人が騒いでる。


その女性はその場で紙幣を全て渡し、僕を買い取った。


あぁ。きっとこの人は酷い人だろう。


いい人程金を積んで僕達をこき使う。


前にいた仲間がそうだった。


そして僕はその女性に着いていく。


主人に歯向かうのは無礼だから。


僕らは何も出来ない。


言われたこと以外。


ぼくとその女性はそのステージの部屋から出ると人気のいない所に行く。


「まさか一人でもここまで値段するなんてね。」


そういう女性。


「さて、帰るからちょっとだけ我慢しててね。」


そう言ってその女性は僕を抱き抱える。


「…え?」


その瞬間女性の体は浮き上がる。


「流石に森まで遠いし我慢してて。」


「え…は、はい…」


そう言って僕はそのまま動かなかった。








数分で誰もいないような森に着く。


「さて、そろそろ大丈夫かしらね?」


そう言って女性は首輪に指を当てる。


その瞬間、首輪と手枷、足枷が砕け散った。


「流石に重いでしょう?そして言いたいことあるなら言いなさいよ。」


その瞬間僕は涙が出た。


「…あ、ありがとう…ござ…います…ごしゅ…じんさま…」


泣いたりしたらダメだと言われたけどその涙は自然に出てきていた。


その女性は僕に笑顔を向けてくれる。


「ご主人様なんて堅苦しいわ。私はエクセル。エクセルと呼んで?」


「はい…えっと…エクセル様。」


「ずっとそうやって言われ続けたのね?しばらく慣れないかもだけどとりあえず家入って?」


そう言ってエクセル様は僕を家に入れてくれる。


「まずは服ね。ボロボロの服じゃ可愛らしい容姿が台無しよ。」


そう言って糸を取り出す。


その糸は勝手に動き出し少しづつ編まれていく。


「ちゃんとしたものは今度作るから今日はそれで我慢してね?」


そう言って水色の服と茶色のズボンを着せてくれた。


暖かい服だった。


「あまり料理は得意じゃないの。美味しくなくても我慢してね。」


そう言って机にはシチューのようなものが置かれた。


僕にとってそれはご馳走だった。


「食べていいのよ?」


そう言われて僕は目を輝かせる。


自分でも分かるほどに。


「あははっ!可愛らしい所あるじゃない!あなた名前は?」


…僕は黙った。名前なんて無かったから。


名前が貰えるのは優秀な人だけだった。


僕はみんなに及ばなかったから…