「どうしたの、川中さん?」

今夜は彼氏と大事な話があったはず。そう思って、訊ねた。

わたしの問いに、川中さんは、

「すみません」

と言ったつもりだったのだろうが、泣きながらの発音は、

「ずびばしぇん」

としか聞こえなかった。

「ずびばしぇん、じごと(仕事)、放り出じて」

「そんなのいいの。どうしたのよ。彼と大事な話があったんでしょ?」

「それが……」

かわなかさんはいっそう顔をゆがめ、首を横にふった。ぼろぼろと涙が流れおちる。

「プロポーズじゃ……なかったんです……」

「あ……そう……」

わたしは言葉につまった。

彼の大事な話というのは、プロポーズじゃなくて、真逆の、別れ話だったらしい。

「それは……残念だったわね。そういうときは……」

わたしは急いで考えをめぐらす。